今月のキーワード

「社会に聞かれた教育課程」

 今月のキーワードというより、これが次期学習指導要領の公式キャッチフレーズなのだという。しかし「社会に開かれた教育課程」をどう実現するのか。現段階で課題は山積していると言わざるを得ない。
 2014年11月の下村博文・文部科学相(当時)による諮問以来、「アクティブ・ラーニング」(AL)が改訂の目玉だとみられてきた。あるいは小学校英語の教科化と高校の科目再編がポイントだとする解説も散見される。
 しかし改訂の最大の眼目は、学力の3要素をバージョンアップさせた「資質・能力の三つの柱」に基づき、教科横断・学校種縦断で指導要領を「構造化」して、カリキュラム・マネジメント(カリマネ)によって各学校で教育課程を編成してもらおうという点だろう。
 一部識者の言う通り「コンテンツ(学習内容)・ベースからコンビテンシー(資質・能力)・ベースへの転換」と呼ぶべきだと思うのだが、当の文部科学省は「転換」という言葉を避けたいらしい。事実、答申では学制以来140年間の連続性さえ強調している。
 「社会に開かれた教育課程」も、改訂の大方針を検討していた教育過程企画特別部会で羽入佐和子主査(当時)が突然表明し、異論もなく15年8月の「論点整理」に取り入れられたものだ。いわゆる「ゆとり教育」の新聞キャッチフレーズに苦しめられてきた文科省当局が、あえて官製キャッチフレーズを打ち出したとみていいだろう。
 しかし、お世辞にも分かりやすいとは言い難い。おまけに保護者や地域住民などが読んでも分かるような指導要領や答申にしたいと言い出し、昨年8月の「審議のまとめ」直前には記者クラブからの批判に応える格好で「学びの地図」という、これまた奇妙なキーワードを出されては、ますます訳が分からなくなる。学習理論に基づく精織な資質・能力論を基底にした改訂だからこそ、学校現場をはじめとした専門家向けと、一般向けの解説をきっちり分けるべきだったのではないか。
 ともあれ3月には答申に基づき、小中学校の指導要領と幼稚園教育要領が告示される。総則を中心に書きぶりは相当変わりそうだが、それが本当に現場にとって「学びの地図」となり得るものか。その上で、「社会に開かれた教育課程」を実現する責任は現場に負わされている。答申名にはわざわざ「必要な方策等」とうたっているが、条件整備や支援策は今後の課題である。何でもかんでもカリマネで解決せよというのは無体だし、ALだって困難だ。何より十分な資質・能力の育成に黄信号が点灯しかねない。改訂に大きな期待を寄せていただけに、あえて苦言を呈しておく。

(渡辺敦司/教育ジャーナリスト)

渡辺 敦司(わたなべ・あつし)

1964年、北海道生まれ。
1990年に横浜国立大学教育学部を卒業して日本教育新聞社に入社し、編集局記者として文部省(当時)、進路指導・高校教育改革などを担当。
1998年よりフリーとなり、「内外教育」(時事通信社)をはじめとした教育雑誌やWEBサイトを中心に行政から実践まで幅広く取材・執筆している。

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